昭和後期、我々は日本三景の一つである宮島の景観と安全を守るプロジェクトに取り組んだ。
国立公園でもある宮島は台風襲来時に高潮被害が発生しやすい広島県沿岸部に位置し、海にせり出した厳島神社とその参道はたびたび台風や高潮による浸水被害を受けていた。
ゲートの設置現場は海と山に挟まれた地形。従来のゲート形式では、扉を開閉するための広いスペースが必要となり、この場所に設置することは不可能だった。
また、厳島神社への参道でもあり、景観保護に配慮する必要もあったことから、我々は、本来は河川内で使う起伏堰を陸上に転用することにした。
鋼製自動起伏堰(上が起立時、下が倒伏時)
[広島県芦田川羽場崎井堰]
すると、課題がすぐに出てきた。
扉が倒伏して道路の一部となれば、扉の上を車両が通行することになる。
その解決のために、まず扉を頑丈にした。
次に頑丈にした扉体を油圧シリンダーで持ち上げ、災害時は堰として起立させるようにした。こうして、ついに昭和63年、我々はゲートを宮島に設置することに成功した。
それが、ステンレス製起伏式防潮扉である。
以後30年、我々が製造したゲートは、いつしか宮島の街の安全と景観を今なお現役で守り続ける宇根鉄工所の代表製品となった。
しかし、ビジネスはそう簡単に成長するものではなく、その後、他の自治体から導入検討の問い合わせが何度かあったが、高コストがネックとなり、結局2号機は生まれなかった。
安全を追求することがコストを押し上げ、実用レベルにはならない―。
宇根鉄工所は大きな壁に突き当たるのである。
宮島ステンレス製起伏式防潮扉(起立時)
[広島県廿日市市宮島町]